米国では数年前から、子どものスポーツの場で『スポーツペアレンティング』という言葉がつかわれるようになってきた。『スポーツペアレンティング』は、スポーツをする子どもを持つ保護者が、どのようにスポーツ活動に関わり、子育てをしていくかを学んだり、考えたりするもの。

子どものスポーツは心身の成長や健康に有益であると考えられるが、一方で保護者の不適切な言動によって、そのメリットを活かすことができないケースもある。プロ入りや、競技優秀者に与えられる学校の奨学金授与を目指して、子どもに過剰な期待と重圧をかけてしまう。指導者、審判、対戦相手に不適当な手段で不満をぶつけることも・・・。

『スポーツペアレンティング』は、親が指導者や審判に対して『モンスターペアレント化』するのを防ぐことも含めて、指導者講習だけでなく、保護者を啓蒙する活動へと展開。監督やコーチが子どもの年齢にあった練習量や試合への取り組み方を理解し、雰囲気作りに努め、より楽しめるような指導を試みると共に、保護者への理解を求めている。



「消費者」になった親が、子どもと指導者をつぶす?

最近、アメリカの子どもたちが使用する野球場やアイスリンクで次のような内容が書かれた看板を見かけるとのこと。

 THESE ARE KIDS
 (彼らは子どもたちである)

 THIS IS A GAME
 (これはゲームである)

 THE COACHES VOLUNTEER
 (コーチたちはボランティアである)

 THE UMPIRES ARE HUMAN
 (審判は人間である)

 THIS IS NOT PROFESSIONAL BASEBALL
 (これはプロ野球ではない)



なぜ、このような文言を掲げなければならないのか。それは子どものスポーツに関わる一部の保護者が、子どものスポーツの場から楽しさを奪い、コーチや審判にも不快な思いをさせているからだ。

スポーツは見る人を熱くさせる。目の前でプレーしているのが我が子となれば、応援する保護者も力が入る。そこまでならばよいのだろうが、子どもたちの試合であることを忘れ、熱狂して勝敗にひどくこだわる人がいる。

時間や場所を選ばずにボランティアコーチに練習内容や試合の采配、我が子の起用についての不満をぶつける。自チームや自分の子どもに不利なる審判のジャッジに激昂。ときには対戦相手の保護者ともみ合いになっているケースも筆者は見かけた。

アメリカでも子どものスポーツを支えているのはボランティアたちだ。一部の種目やエリートチームでは有償のプロコーチがいるが、小学生が参加する多くの地域の野球、サッカー、アイスホッケーチームなどは、参加する子の保護者数人がボランティアコーチを引き受けることで成り立っている。

競技経験のない保護者は練習日程や場所の確保、試合組み合わせといったマネジャーの仕事を担当。保護者で医師でもある人はチームドクターとなり、自分の子どものチーム以外の選手たちの応急処置にも走る。ビデオ撮影係、スコア記録係などもある。当番制ではないが、各自のできる範囲のボランティアで活動を支えている。中学や高校の学校運動部には、日本の部活動顧問に相当するコーチが報酬を得て指導しているが、保護者ボランティアが大会などを補助することもある。

ところが、保護者や地域の人のボランティアで成り立っている子どものスポーツ活動であるのに、先に述べたように不満ばかりをぶつけてくる保護者が少数ではあるが存在するのも事実だ。もちろん、ボランティアのコーチが子どもに虐待まがいの指導をしているのであれば、保護者ははっきりと批判しなければいけない。

しかし、指導者講習を受けて適切な方法で活動を支えようとしているボランティアのコーチにクレームばかりつけているとどうなってしまうだろうか。ボランティアでコーチや役員を引き受ける人がいなくなってしまう。指導者講習でも難しい保護者とのコミュニケーション法を学ぶが、コーチ自身も仕事のやりくりをしながらボランティアをしており、感情を持つ人間でもある。やりきれない気分になり、シーズン終了後に辞めてしまうコーチもいる。

アメリカでは小学生の子どもだけでの外遊びを推奨しておらず、ビデオゲーム、デジタル端末を使った遊びは大人気。広場での子どもたちだけの遊びとしての野球、サッカーなどは絶滅しかかっている。大人が関わらなければチームとしてスポーツ活動できない。それなのに、一部の保護者が、最少のコストで最大の利益を得ようとする消費者になり、悪質な客のように振る舞うと、子どものスポーツを無償で支えようとする人的資源を食いつくしてしまう。

こういった問題にアプローチするため、アメリカの子どものスポーツの場では指導者だけでなく、保護者教育にも力を入れるようになってきている。


日本の学校の部活動では、顧問として活動を支える教員の負担が大きいことが問題視されている。部活動という課外の自主的な活動であっても、これまでは、教員が顧問をするのは当然のことと捉えられてきた。生徒も保護者も同じように考えてきただろう。

しかし、保護者が「消費者」や「顧客」感覚で部活動に関わり、サービス向上ばかりを求めていけば、教科指導をしながら顧問も引き受けている教員という資源を食いつぶすことにつながるのではないか。無意識に「消費者」になってしまっている保護者もいるだろうから、学校側は教員である顧問ができることと、できないことを保護者に伝える必要がある。そうすれば、顧問とともに活動を支えようと自主的に立ってくれる人が出てくるかもしれない。

そのときには、ボランティアとして活動を支えようとする保護者の力が活かせるように、制限事項もあわせたボランティアの活動範囲を明文化し、参加者全員に知らせておくべきだ。そして、自主的に立ち上がってくれた人が、「悪質な顧客」のように振る舞う一部の人たちにつぶされないように注意しなければいけない。
(出典:スポーツライター・谷口輝世子さんのコラムより)